2020/08/09
川魚と鹿

山の緑は日に日に濃くなってきている。強い日差しに生き生きと緑が膨らんでいく。
母は、弟に一切連絡をせずに、弟はイラついている。8月中に、施設を決めて母を入れるからと言っていたが、思うようにはなるまいと私は思っていた。
老婆は、躁鬱ではなく、アルツハイマーでもなく、診断的には『普通』なのだから。「自立の生活もできます」と、主治医が面接で余計なことを言ったばかりに、母は家で一人暮らしをすると言い始めた。
うまくいっていた弟と母は、険悪になりつつある…。結婚してから、うちにほとんど寄り付かず、大人になってから初めてまともに母親と対峙した弟は、蓋を開けてみたらあまりにも理不尽なことを言う母親にイラついているのだ。
ね、弟よ、私の苦労がわかったでしょう。
あのひとは「竹を折ったような」ひと🤣🌀💦
施設に入るのが嫌でひねくれて、連絡をしてこない。まるで、幼児だ。でもそれはヤツの常套手段なのよ。そして、入院中なので、こちらからは連絡ができないのだ。病院が事情を汲んでくれて三ヶ月入院させてくれるそうだが、期限までに決まるとは思えない。
でも、そうなれば、その精神科にずっと入院なのに…。
半沢直樹、私は見ていないけれど、番組宣伝のCMで『倍返しだ』といっているのを聞くたび、私は、心が曇る。
私は、幼い頃から『100倍にして返してやる』って常時言われていました(笑)「人間っていうのは恐ろしい」と、魂の奥深くにしっかりと釘を刺されて生きてきました。でもね、やったことが100倍になって返って来たのはなんと老婆自身だったという…。人生って恐ろしい。
この浮世に半世紀生きていますけれど、みんな、ちゃんと謝れば、許してくれます。仕返しをするひとなんかに会ったことありません(笑)
私があの老婆に仕返し?しません。そんな価値もない。彼女は充分裁かれています。神さまが裁いています。
大雨の中、息子が傘をさしかける。階段で、腕にすがりつこうとした老婆の手を息子は、振り払った…。
なんということ。

林を分けて入った小川の汚いにごり水に、2匹の川魚の黒い影がある。神経質で、臆病そうに川底を泳ぐ暗い岩陰に住んでいる川魚たち。
枯れ葉がぽちゃりと落ちただけで、大騒ぎになってしまうほど、川魚たちは、臆病だった。
その川に、春になって久しぶりに大きな鹿がやってきてチャポンと顔を突っ込んだら、みんな驚いた。
大きな鹿はただ喉が乾いただけ。水を飲みにやってきただけなのだ。
川魚をとろうなんて、考えてもいなかった。
川魚たちは声を殺して相談する。アイツは、勝手気ままで、なにをしでかすか、わかったものではない。この静かな水辺をかき回す。そうして、知らん顔して去って行く。礼儀知らずだ。そんな権利がどこにあるんだ。どうにか、ここにアイツが来ない方法はないか…。
猟師に相談して、撃ってもらおう。いや、猟師は信用できない。漁師のやつだって俺たちを、捕まえて食ってしまうかもしれない。
じゃ、良い考えがある。
鹿のヤツがこの水が飲めないようにしてやろう。上の流れを堰き止めるんだ。
それは。いい案だ。
熊に頼んで、川の水を堰き止めた。
川は干上がり、鹿は二度と来なくなった。
けれども、魚どもも、居場所がない。濁った川はいよいよ暗く、沼のようになった。落ち葉が腐り、饐えた(すえた)澱の淀んだ泥の溜り水になった。
すると、2匹は、大きな喧嘩を始めた。
何故、水が来ないんだ!熊のやつめ、やりすぎだ。
俺たちの居場所がないじゃないか。
こんな暗いぬかるみじゃ、ヌルヌルして住めやしないじゃないか。
誰が熊なんかに頼んだのだ。
いや、鹿が…、鹿が悪いのだ…。
そうか、無神経な鹿のヤツ…。
鹿は、もうその淀みには近づかない。山の奥に行けば、美しい静かな場所があるよ、と、野ウサギさんに聞いたからだ。
「奥にはもっときれいな泉があるよ。
鹿さん、あなたは、もう、あそこへ行く必要はないんですよ。
さあ、こっちへ。どうぞ。」
「鹿さんのお父様はお星さまになられますよ。
これからは、いつでもお空にいらっしゃいます。どこにいても会えるん

そこは、きれいな水がこんこんと湧き出ていて、
泉の向こうには良い香りの大きな山百合が
むせるようにいくつもいくつも咲いていたそうです。
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