2018/06/30
怒りの方向
歯磨きが上手にできない幼い兄弟。冬の夜。お風呂上がりに兄弟で歯磨き。
私が歯磨きが辛くてヨダレでパジャマを汚してしまった。
「あーー!何をやってるの!!!」
母は汚いだの、だらしないだの烈火のように怒る。
まるで狂ったような声。
私を腕をひっつかんで外にだした。
大人の恐ろしい力。
寒い冬の夜。
お風呂上がりだった。
いつだって、父の帰りは遅い。
ごめんなさいは?
言わないんだったら、そのままだ。外にいろ!
泣きながら外で、玄関の扉を叩く。
入れてはくれない。
そのうち泣き疲れて外の柱の影に立っている。
怖い闇。
裸足で所在無げにただ立っている。
泣くのも怖い。
気が違った様に、バタバタと走り回り家中の鍵をかける母。
大人の力にはかなわない。
諦める。
真冬の夜に庭の石の上に座る。
寒かっただろう、と、思うが、
寒かったという記憶がないのだ。
不思議。
夜の闇は、子供には絶望だ。
「泣いても無駄だよ!!」
大声の叫び声が家の中から響く。
だから、泣かない。面倒。
泣いたからってどうなるものでもなかった。かえって母を興奮させるだけ。
泣けばいい!!と、叫ぶ声。
父は帰宅しない。
そしてしばらく経ったある日のこと。
同じことを弟がした。
歯磨き粉のついたヨダレでパジャマを汚したのだ。
母は、弟にはこう言ったのだ。
「あらら、やっちゃん、ちょっと汚しちゃったね。
待ってママが拭いてあげるから。大丈夫、ちょっと、待ってね。」
…。
すると、母の対応に私は我慢できずに、
私は突然、弟を押し飛ばした。
母ではなく弟を押し飛ばした。
理由もなく弟をいじめたと言って
母は恐ろしいくらいに私を、怒鳴った。
耳が痛くなるくらい怒鳴られた。
体が固くなる。
まだ幼い頃。
言葉もうまく喋れない頃。
口で言えなかったことが弟への暴力として
出てしまったのだ。
そしてもうひとつの理由。「絶対口ごたえはするな」と、常に言われていた。
「口ごたえは許さない」と。
私は、怒りのやり場が分からずに、弟を渾身の力で突き飛ばした。
『全く、ひどい子だよ。何するかわかりゃしない。頭がおかしいんじゃないの!?』
四十年後私が、この時の私の気持ちを話すと、母は、静かに黙ってしまった。
私は、いけなかったのでしょうか?
私は何も悪くない。
私は、悪くない。
今、こう自分に言い聞かせる。
嫌いな子供を育てるくらいの不幸はありません。
中絶、里子、色々な道もあったでしょう。
虐待はね、犯罪です。心を壊してしまいます。